8020(ハチマルニイマル)を達成した方は、どのような対応をしているのか?
8020(ハチマルニイマル)運動とは?
8020(ハチマルニイマル)運動とは、『 歯が20本残っていれば、おおむね咀嚼(そしゃく)することに困らない 』という事を前提に、1989年に日本歯科医師会と厚生省(現 厚労省)が『 日本人の平均寿命(当時)である80歳で20本の歯を残す 』事を目標にした活動です。
当院の患者さんでも 8020 を達成している方、80歳になっていなくても 今後十分に8020を達成できるであろう方が多くいらっしゃいます。
臨床現場の感覚で言えば、親知らずを除く残存歯28本のうち 上下左右大臼歯8本を失うと 20本残存でも咀嚼に影響が出ることが考えられます。
しかし 『 おおむね 』という事であれば、存命の間に20本以上の残存歯を確保することは 理にかなっていると言えるでしょう。
ご自身の歯を1本でも多く残すことは重要なのですが、仮に8020を達成されていなくても、インプラント治療等で 『 しっかり噛める 』状態を確保できているのであれば、同等の結果が得られると解釈していただいて問題ないと思います。
歯科医師になって27年になりますが、『 しっかり噛める状態を確保できている方は、そうでない方よりも明らかに若々しい 』という事が明らかであることを実感しています。
この方は何歳に見えますか?
ある方の口腔内ですが、この方は何歳に見えますでしょうか?
歯科医療従事者に 事前情報抜きにして この口腔内写真だけで年齢を推測させれば、口腔内の状態と充填物(この方の場合は金合金)から判断して、『 比較的良好な状態の30~40代 』との回答が最も多くなると思います。
今回はテーマである 8020 が事前情報にあるので 80歳以上の方と回答される方が多いと思いますが、この方は1941年(昭和16年)生まれなので、正確には現在79歳です。(2020.10.29)現在
したがって、正確には 8020 に当てはまりませんが、この方が1年以内の80歳で一挙に8本以上失うことは ほぼ考えられないので、今回はこの方の症例提示を致します。ご了承の程宜しくお願い致します。
歯を失う主な原因2つ
歯を失う原因として、一般的には『 虫歯 と 歯周病 』が挙げられます。
この2つは間違いではないのですが、現在では歯牙破折(しがはせつ:歯が折れてしまうこと)なども 歯を失う原因として問題視されています。
したがって
①:細菌感染からくる炎症によるもの(虫歯 と 歯周病)
②:歯に加わる異常な力によるもの(強さ 時間)
上記を 歯を失う2大原因 とした方が 現状に即していると思われます。
各個人によって、虫歯傾向になる方 歯周病傾向になる方、力の影響を受けている方 いない方に分かれます。
この方のタイプは?
この方の場合は、『 くいしばり を伴う 歯周病タイプ 』です。
金合金による詰め物が入っていますが、これらは虫歯によるものではなく、食いしばりなどの異常な持続的な力によって、歯が破折(折れる・欠ける) や 偏摩耗(歯の一部のみが異常にすり減ること) を起こしたことによるものです。
歯周病の重症度を調べる検査のうち『 歯周ポケット測定 』という検査があります。
歯周ポケットの深さ3mm以内が おおむね健康な歯周組織(ししゅうそしき:ハグキや顎の骨などの歯を支える組織)としています。
この方の場合、一部で4~5mmの歯周ポケットがありますが、定期検診で的確に管理することにより、臨床的に問題のない状態を保っています。
8020達成のために必要なこと
8020達成 すなわち『 歯を長期間抜かずに残す 』ためには何が必要なのでしょうか。
8020達成のためには、主に
①:日々の的確な歯磨き
②:日々の力へのコントロール
③:的確な歯科治療を受ける
④:定期検診への参加
この4つが重要と考えます。(細かく挙げればもっと多くなりますが、ここでは割愛します。)
①:日々の的確な歯磨き ⇒ 日々の歯磨きによって、細菌感染からくる炎症による問題をコントロールします。
一部の方は『 歯科医院での定期クリーニング 』が重要と考えている方もおられます。
しかし 定期クリーニングが威力を発揮させるためには、ご自身による日々の的確な歯磨きが前提条件なのです。
②:日々の力へのコントロール ⇒ 本来『 上下の歯は食事時以外触れ合わない 』 のです。
食いしばる ことはもちろんのこと、触れ合う という程度でも 長時間・長期間 の持続によって歯牙に対して破壊的な力となります。
③:的確な歯科治療を受ける ⇒ ① ② の予防をしてもなお問題が起きた場合、的確な歯科治療が受ける必要があります。
④:定期検診への参加 ⇒ ①②③ のことはプロの管理のもとで行うことが重要です。
治療の やりっぱなしではなく ぜひとも定期検診へご参加ください。
8020達成 に向けた この方の実践は?
この方は上記4つを実践しました。この方の場合、少し特殊な環境下にありました。
この方は 本人はもちろんのこと 家系図上でも歯科とは全く関係がなかったのですが、娘が歯科衛生士学校に入学したこと、その2年後に息子が歯学部に入学したことをきっかけに、エチケット程度に行っていた歯磨きを 自己流ながらも念入りに行うようになりました。
息子が歯科医師になって修行先から地元に戻って開業したのをきっかけに、それまで受けた治療を全面リフォームのようにすべてやり直しました。
治療中と その後の定期検診では、息子から
『 とにかく歯磨きしろ! 』
『 メシ食う時以外は噛むな! 唇閉じて歯を離せ! 』
と 口やかましく言われ続けました。『 うるせぇな・・・ 』と思いながらも 言う通りにしていました。
このような過程を経て、娘が歯科衛生士専門学校に入学してから始まった自己管理から35年経過した結果が、上記写真の口腔内です。
もう おわかりかと思いますが、『 この方 』というのは 院長の父親です。
特別エネルギッシュなタイプではないのですが、79歳の今でも人間ドックで異常は全く引っかからず『 死ぬ気配がない 』状態です(笑)
本人の誕生日は 6月4日の『 虫歯予防デー 』
息子の院長は 1月18日 の『 いい歯の日 ※ 』。
不思議です。( ※ 日本歯科医師会では『 いい歯の日 』を11月8日と設定しています。)
もう間に合わないのか?
今回は院長の父親を引き合いにして 8020 実践方法を解説致しました。
しかし一部の方は 『 私の場合は もう手遅れかも? 』 と思うかたも おられるかもしれません。
院長父親の場合は、かなり運のよいケースです。
しかしこのような条件下でなくても、いつでも今からでも必ず良くなります。
上記 ①~④ を実践するには、とにもかくにも『 総合的な高い臨床力を持つ歯科医院 』を受診することです。
皆さまの口腔内の健康、ひいては全身の健康が成立することを願ってやみません。